マリー・キュリー

ありえたかもしれない物語。ファクションミュージカル。

こんな風であったらいいが詰め込まれた大好きな物語。

 

2023年3月はミュージカル界がとんでもなく混みあっていた。大きいものだけでも帝劇スパイファミリー、日生太平洋序曲、クリエRENT、国際フォーラムジキル&ハイド、プレイハウスジェーンエア、いやどうしてこうなった?そんでそこに最後に飛び込んできたのがこれ、銀河劇場マリーキュリー。まだそんなやれるほど人いた!?と思ったけど、まぁいるよ。いたうえにめちゃくちゃキャストいいな?そして題材が面白そうだな?でスケジュール調整して取っておいてくれた自分ありがとう。正直地味めな作品かな?でもこのキャストなら堅実だよなぁと思ってたんだけどとんでもなかった。傑作。幕間でもう1回観たいな、チケットあるかなってプレガ覗いてたときは、あ、あるなぁでとりあえず閉じたんだけど、終演後に目に入ったリピーターチケットの張り紙を見てどこ!?今すぐ確保させて!絶対!!!でコンビニに走りました。現金なんて持ち歩いてないもの。待ちますよって言ってくれた売り場のお姉さんありがとうございました。

 

マリーとアンヌの友情、マリーとピエールの尊重し合う科学者であり夫婦、マリーとアンヌとピエールの3人になっても通じ合っている関係性、ここが物凄く好きだった。アンヌとピエールなんて二言、三言の会話しかなかったと思うんだけど、マリーったらしょうがないよね、って笑い合う、マリーをあいだに挟んだ少し距離のある親しさっていうのかなぁ、あの空気感が凄く良かった。あそこのアンヌがマリーとピエールのお家を訪ねて来るシーンが何気ないんだけどとっても好きで、この関係性の素敵な魅力が詰まってた。アンヌの訪問に大はしゃぎするマリー、バブカを切ってきてとサラっとピエールに言うマリー、論文にテンション上がっちゃう夫婦にちょっとついていけないってひいてるアンヌ。やり取りのひとつずつが愛しくて可愛い。

私はとにかく愛希れいかの歌とそれに乗るお芝居が大好きなんだなぁって再確認した気がする。老年のマリーから大学に進学するために汽車に乗る女の子への変わり方のなんと鮮やかなことよ。うそだろ!?って毎度思うもんね。伸びやかな声と早口の台詞とちゃぴちゃんこんな振れ幅もあるのね!?って驚きのまま、女であること、ポーランド人であること、突きつけられる差別を「あぁ、知ってるなぁ」とどこか他人事のようにも実体験のようにも感じる絶妙な演出の匙加減。もっと露骨にももっと粗野にも出来ただろうけど現代で"分かる"と思わせるラインはあそこだよなぁって。無表情で頑なでなければやってられないこと、ひとつやふたつ覚えがあるよね。あそこからピエールに出会って、独身主義者でって言われるのに、ん?って顔するの本当好き。1ミリもそんなこと考えてないし意識にものぼってませんけど。何言ってんだコイツ?そこからなぜ科学を?って言われた答えが、予測不能で未知なるものかな?あそこのシーンで出てくるのも凄く好き。れいかちゃんと上山くんの声は相性が良くて、上山くんが包み込むようなのが役としても展開としてもなんてぴったりなんだろうと思う。幸せで思いやりの深いシーン。だけど子供を放り出すように研究に没頭するマリーと、子供と遊ぶピエールにはどきりとして切なくなる。マリーという人を多角的にみせてくる。

ルーベンと契約をするのも強さなのか周りが見えていないのかどちらにも見えるし、どちらでもあるんだろうなぁ。だってあの実業家怪しいよ?怪しくない実業家のほうが難しい気もするけど。屋良っち~!久しぶり~!のテンションだったけど、良くも悪くもこの人のルーベンは浮いてるなぁと思った。キラキラスーツで踊り始められたらそれはもうSHOCKなのよ。オンに行こう!って言ってるヤラ。視線の使い方がねー、遠いのよね。ただこの話のなかではその浮き具合が良い部分もあったし難しいなぁ。私はたぶんもっと芝居に寄ったルーベンのほうが好きな気がする。内藤くんとかにやらせたくない?歌がべらぼうに上手く酷薄に笑う内藤大希見たいでしょ。矢崎くんもありだなぁ。新納さんとか伊礼さんとかガチで怖いに振ったのも面白いと思う。フィクションの幅を出してるのはルーベン。アンヌとは対極にいる人。

好きなシーンを上げだしたらキリがないんだけど、1幕のラジウムの危険性に気付いたマリーが全てを明らかにしなければと焦って視野の狭くなるところかな。マリーが「次の機会なんてない」と激昂してほとんどピエールを詰るんだけど、ピエールがそれを静かに受け止めてくれるところがすごく好き。そこから、ラジウムに損傷された人体が必要だって自分の左手に巻き付けるマリーを止めるんだけど自分の足にも巻き始めるピエールも物凄く好き。あんなのすごい愛じゃない?止めるけど迷わず一緒に並んでくれるってすごく嬉しい。ピエールの眼差しが優しくて、出会いのシーンからマリーのことを科学者として扱い(「そこから女性、というのを抜かしていただければ」)けれど女性としても惹かれていることを滲ませて、マリーのことが好きで大切で仕方ないのが伝わる。あんな人と出会えたらと思うよね。器が大きいだけじゃないんだよなぁ。

2幕はなんといってもあなたは私の星。私はこの曲を舞台SPOT映像として開幕わりとすぐにMVのBGMとして使った公式にひれ伏したい。めちゃくちゃ見せ場も見せ場、山場も山場だよ!?もちろんMVだけだと分からないけどこれ聴いててあの流れできたら更に涙腺崩壊する。とにかくアンヌがすごい。生き残りだと自らを晒す覚悟、哀しくて辛くてそれだけに支配されそうなのに、マリーに言う「あなたは、あなただから良い」という肯定。もうさ、くるみちゃんを初めて観てるのが修羅天魔な私はさ、正しいことをしてるはずなのに大きなものに押しつぶされそうな、それでも懸命に前を向こうと泣きながら強さが見えるくるみ沙霧と一緒にめちゃくちゃ泣いたからさ、屋上で叫んでる時点でもう泣くしかないのにマリーに向き合ってあの肯定がくるのは無理だったのよ。どんな強さ、どんな誇り。マリーの歌う途中にアンヌが声を上げて泣き出すところがあるんだけどもうどんだけ一緒に泣かせれば気が済むのかと!?無理だよ!涙も鼻水も嗚咽も止まんなくて本当にどうしようかと思ったんだよ。あなたは私の星。それぞれが、それぞれを想い、自分よりも自分を知っているとすら思い、支えて受け止めて抱きしめ合う光り。素晴らしかった。あんなに泣けるデュエットを知らない。

と、思うじゃないですか。ぼろっぼろに泣いて涙のあとの残るまま笑い合った2人に告げられるピエールの死が重い。暗転からパッと明るくなった研究室で何かを書いているマリー。「ピエール、そこに三角定規ない?ピエール?」と、あたかも前のシーンがなかったかのように始まるこのシーンが、涙でぐちゃぐちゃになった顔をさらにぐちゃぐちゃにさせてくる。静かに出て来るピエールがこれまでと同じ穏やかさで「大丈夫」って声をかけてくれて、「こんなこと出来ない!」って泣きながら崩れ落ちるマリーを支えて、一緒に泣きながら「出来る」って伝えてくれて、とにかく優しくてここで予測不能で未知なるもののリプライズは泣くしかないんだよ…!もうね、ピエールの仕草ひとつひとつが好きでたまらないの。椅子に腰かけて机に向かうマリーを後ろから抱きしめて腕だけをぎゅっとするところも、2人で立って抱き合うところも、そこから崩れ落ちて膝をつくマリーを支えながら自分も跪いて額同士を合わせて目を合わせにいくところも、手がずーっと優しいのね。頭を撫でて背中をとんとんと叩いて手をぎゅっと繋いで。マリーもピエールのことが大好きで(あの論文が通っただっけ?研究が出来るだっけ?良い結果なのにわざと暗い表情で紙を渡していたずらっこみたいに含み笑いで覗き込むシーン大好き)置いていかれたら何も出来ないって思うのに、君は出来るよってあんな風に伝えられたら一歩踏み出してしまう、あの感情の流れが本当に良かった。

物語が冒頭に戻って老年のマリーとイレーヌ。ここにさらに泣きどころが用意されてるんだけど、姿を消したアンヌから「全部見てたよ」って手紙が届くの、もうベタもベタすぎて陳腐にさえなりそうなのに"あの頃"のままのアンヌが「初めて教壇に立った日」「プチキュリーって言うんだって?」「私も駆けつけたくなっちゃったよ」って"あの頃のまま"語り始めるの、だからそれはだめだろ…!工員たちの名前が記されていく周期表なんて涙で見えません状態だしラスト駄目押しのように出会った日のマリーとアンヌ!もうバカ!!!!!こんなに声上げて泣きたくなったことないわ。カテコでも歌うんですよ、あなたは私の星。トドメでしかない。

たまたま1回目に観に行った回が終了アナウンスが流れても拍手が止まらなくて初めてもう1度出てきてくれたときだったんだけど、ちゃぴちゃんが泣きながら出て来るし「呼んでもらえると思わなくて」とか言うし、こんな凄い舞台なのに何言ってんだ!?って久しぶりに拍手止めちゃだめだ、こんなんじゃこれを凄く良いと傑作だと素晴らしかったと伝えるすべがない!拍手!!!って感じだったから本当にあそこに居られて嬉しかった。良い作品は客電が明るくなったってアナウンスが流れたって拍手が止まらないんだよ。最近本当カテコ要求するような運営ばっかりだったから本来あるべきカテコってこれだよなって思った。次に観に行ったときも1回目と同じタイミングでアナウンス入れてたし要求するようなことしないって姿勢はすごく好きだった。だってもしかしたら違う回はそんなに拍手されないかもしれないもん。生ものの感じ方はその日、その場にいた観客が決めるものだと思う。

全幕通してマリーは本当に怒涛のように踏み出し振り回されそれでも進んでいく物凄いエネルギーの役だったけど、それを体現出来たのはちゃぴちゃんだからだよなぁ。本当に凄かった。そしてその隣にいたのがくるみちゃんのアンヌで、上山くんのピエールで本当に良かった。すぐにでも再演して欲しいし、絶対にここ3人は同じキャストが良い!と思うけど、ピエールとルーベンに関してはやってもらいたい人も多くて妄想キャスティングが捗る。再演が続いて、新たなマリー、新たなアンヌにも出会いたいと思うしね。傑作でした。