THE ILLUSIONIST -イリュージョニスト-

劇場の幕が開くことを奇跡とは言いたくない。

だけど、このミュージカルだけはそう言いたくなってしまって、でも堪えた。

意地と根性。3日間だけの公演になったときに思った。なんつーかっこいい意地だよ。

数奇な運命を歌うミュージカルは、その外側も内側も、それを辿った。

最高のイリュージョンにかけられて。

 

紋章が掲げられたアーチ。舞台中央にアクティングステージ。その左右、奥に並べられた椅子。最奥にはオーケストラ。グランドピアノが入ってるのたまらなかった。舞台手前にはシェル型のライトが並んで幻想的な雰囲気を醸し出す。場面によって深い赤のベルベットのような幕、星の青い光が浮かぶ黒も良かったな。

 

オープニングのオーケストラ演奏が始まった時点でもうとんでもなく音が好みで、そもそも期待して観に来てるのにこの一音目で満足!ってなるくらい全編を通しても本当に音楽が好きだった。音の展開とか全然分かんないけど、ストレートに綺麗なメロディに浸らせてから転調に巡らされて、それがあまりにも妖しくて魅かれてたまらなくなる。しかもそれを歌うのがあの圧倒的歌唱力のキャスト陣。とんでもない。物凄い難しいんだろうなってのは分かるんだけど、全部聴かせてくる。最高。

そのなかでも一番凄かったのは海宝アイゼンハイムの幕切れかな。もうあのガッツン!と浴びせられる圧と光。そこからもう一段階!?っていう伸び。本当に心臓鷲掴みだし呼吸は止まるし物凄いとしか言えない語彙力が悔しい。あそこ本当に舞台上に色味がなくて、アイゼンハイムは白シャツに黒パンツのシンプル衣装だし、それを後ろからの照明で照らしてるだけなのに物凄い強かったし、あの強さを出せるのが海宝直人だよなぁと思った。情景が全部見える歌も、圧倒的陽!で攻めてくる強さも、本当に好き。他の曲だとめぐジーガの嘘の世界では物語への引き込みが最高だったし、パッっと離すような手腕もお見事。あそこの、私を信頼してチケットを買って下さった?それはなんて間違いなんでしょうってニュアンスの台詞大好きだった。めぐさんに言わせる説得力よ。あとは栗原ウールの疑いも大好き。あれを聴かせてくれる歌唱力ってきっととんでもなく恐ろしいものよね。栗原さんダンディな声が本当素敵。

 

1度目と2度目で全くストーリーの追い方が変わる戯曲が本当によく出来てて、これは見れば見るほど気付くところも考えさせられるところも増えていく楽しさがあるなって思った。でも一方で、全部記憶消して真っ新な状態でもう1回観たい!とも思う。贅沢。これまでどんなに好きな作品でも初見の状態になってもう1回観たいと思ったことってなかったんだけど、これに関しては本当にもう1回あのラストの衝撃を味わいたい。初見でもね、ちょっとずつ引っかかるんだよ。アイゼンハイムの理知的に見せながら突然衝動的になる感じはなんだろ?とか、皇太子あっさり剣手渡すな?とか、アイゼンハイムとソフィは幾度も逢瀬を重ねたという台詞とか。観客に委ねられた想像力を掻き立てる部分と絶妙なミスリードがハッと重なった瞬間の驚きったら脳内叫びながら全力で巻き戻しだし、この初見でこその衝撃!で喝采をあげるし、それでもどこが真実かなんて分からないよ?って問いかけられるのたまらなかった。見るときによってもキャスティングによっても印象が変わる気がする。

 

アイゼンハイムのこと。

春馬がやるんだったんだよなぁってどうしても見てしまうし、きっとワークショップから持ってきてるキャラクター付けがあるだろうから、海宝くんの芝居にすごく春馬が見える瞬間があった。なんかね、滲んでくるの。あれ不思議だったな。だからある意味では三浦春馬と海宝直人のアイゼンハイムだったのかも。特に前半はそう思うところが多くて、ジーガに対してちょっと我儘だったり、ソフィに対して強く感情をぶつけるところとか、あぁその表情は春馬がするなって見えた。2人は全然似てないのに面白いよね。アイゼンハイムを真ん中に顔を出すっていうのかなぁ。でも後半、幕切れなんかは特に完全に海宝直人だった。あれは海宝くんじゃなきゃ出せない。海宝くんの役だと思った。大人ぶりながら、イリュージョニストとしての技術を磨いて何とか地位を獲得して、無理やり引き離された子どもの頃の想いを秘めて秘めて爆発させて、危うさを乗せたこのキャラクターは本当に魅力的だった。企んだり出し抜いてやろうって考えてたり、ちょっと斜に構えた冷たい表情する海宝くんって新鮮で良かったな。

 

皇太子レオポルドのこと。

こっちはむしろ全く海宝くんが透けなくて成河さんがオリジナルですよね?って思ったのが面白かった。やっぱ強いのよ。でも物語のなかの役割としての強さ、異質さが凄く良く出ててさすがだった。絶対あんたがやったと思ったわよ!ってね。皇太子という立場が不安定で癇癪持ちってベースと、それでもソフィを大切に思ってるところが覗くの全部最初からあるの本当にずるい。何も嘘ついてない。政略的な戦略と本人から出てくる言葉の捉えられ方が絶妙なミスマッチを起こしてるんだよね。上手いんだよなぁ、抜群に上手い。これ海宝くんだったらどうなってたんだろうと思う。結構印象変わったんじゃないかと思うんだよね。ある意味正統派皇太子の見た目っていうアドバンテージの作用のさせ方とか。面白いなぁ。こんなにも国を想って何とかしようとして、それを出来る能力もありそうなのに、少しずつの掛け違いでひっくり返って絶望させられて諦めるの、衝動だったろうけど止める手立てがない。皇太子の視点からずっと追うのも楽しそうだな。

 

ソフィのこと。

振る舞いに芯があって凛としてて、自分の立場とか立ち位置とかにすごく自覚的なところが良かった。だけど自分の見られ方をよくよく知ってるからこそ、それをくるんと覆いかぶせてふんわりと存在する。あの見せ方は物凄くちゃぴちゃんに似合ってたなぁ。箱入りのお姫様ではなく、自分の意見を発言する胆力も滲み出るのよね。でも現実を見てよってアイゼンハイムに迫りながら、その姿に惹かれて恋焦がれてロケットを持つの王道ラブロマンスー!最高ー!って感じだった。アイゼンハイムとソフィのエピソード、ロケットと引き離されるシーンだけなのに、だからこそロケットのキーが効いてくるのか、口ではあぁ言ったけど今もずっと大事で大切で、思い出だって蓋をしてるのにあの衝動的なアイゼンハイムには開けてしまうのよね。あの葛藤が良かった。自分自身に自覚的なうえで皇太子とか周りのこともよく見えてるからこそ、アイゼンハイムと行こうと決めたときからの行動力が強い。2人はどう生きたのかな。生きてるのかな。私は今回2回観て、2人は生きて逃げ切ったと思ったけど、きっとそうではないって話の取り方も出来ると思うし、あのエンディングからカテコでの真実は?って締めは凄く好きだった。

 

ジーガとウールは、見守るものと振り回されるもの。

最初はジーガに引っ張られて物語に引き込まれるからそのまま惑わされるかと思ったのに、すぐにパッっと手離されて迷子になろうかというところ、”一般人”視点のウール警部に近づいていく。警部なんて役は物語を動かすか俯瞰するかしてそうなのに、ここに観客と同様の視点を与えてるから”正しいもの”を見せられてるんだよね?って思わされる。違うんだよね、本当はこの人が一番観客と一緒に振り回されてる。ジーガもアイゼンハイムへの執着というか、母性を裏切られたようにされる場面では振り回される側に入るんだけど、距離を置いたことによる冷静さと、いつでも想っていると言われたこと、託されたものによって本来の興行主という欺く側への立ち位置に戻っていく。「言ってごらんなさいな」みたいな台詞回しの似合うことね。あそこで回収されてく2人の10年の絆みたいなもの、すごく良かったな。ジーガとウールが冒頭とラストで同じシーンを演じることで物語の輪が出来て、でも見え方が全く変わるの面白かったー。めぐさんと栗原さんだからこそ回せるし閉じられる。この2人の説得力は凄かった。

 

結末に衝撃を受けて呆然としながら脳内は悲鳴を上げて全力で巻き戻し!!!って矛盾することをしながら、でもわぁっと声を上げそうになるくらい高揚したカテコはこんな拍手は体感したことがないってくらい圧倒的でびっくりした。もともとわりと拍手の響く会場ではあるかなって思うんだけど、大きな地鳴りのようだったんだよ。自分も無我夢中で拍手しながら、アンサンブル、プリンシパルってどんどんそのボルテージが上がっていくの本当に凄かった。プリンシパルが栗原さん→めぐさん→ちゃぴちゃん→成河さん→海宝くんの順だったんだけど、栗原さんの時点でとんでもないのにまだ大きくなるの!?ってくらいで、でもそれをキャストに全身で浴びて欲しくて仕方なかった。本当に拍手しか出来ないなんて!って思うんだよ。スタオベじゃ足りんーーー!ここに来るまでの道のりが無茶苦茶だったの分かるし、とんでもなかったんだろうけど、劇中は本当にそんなこと考えずにのめり込んで体感させてもらったし、これがコンサートバージョンだなんて贅沢がすぎるのよ。本当に生み出してくれて良かった。嬉しかった。本来の演出で観られる日を楽しみにしてます。全キャスト続投してくれ!!!