フランケンシュタイン

見れば見るほど楽しかった。

1月12日 柿澤ビクター×小西アンリ

1月17日 中川ビクター×加藤アンリ

1月21日 柿澤ビクター・中川ジャック×加藤アンリ

1月30日 柿澤ビクター×小西アンリ

 

再演が決まってから初演の評判を見てたらめっちゃ好きそうなんだよなぁ…と思って、ハマっても増やせるようにまずは前半取っておいた自分ぐっじょぶだった。でも、正直1回目、2回目は2階から見たもんだから音のバランスが悪すぎて、面白かったけど、えーっと…?となり、曲もそんなに耳に残らないなぁってなったんだけど。関係性語りの地獄が大好きなおたくは、両ペア見たことによる色んな人の感想、解釈、レポが楽しすぎて、それでハマった感じかなぁ。3回目、4回目は1階だったのもあり、解像度上がってきたーーー!ってのもあり、無茶苦茶楽しくなった。あれもこれもそれも歌の威力とは裏腹に行間と余白の芝居がたまんなくってね。とかく東京楽の柿澤×小西は本当に見られて良かった。ひっさしぶりにあんなにふらっふらになる観劇体験させてもらった。

 

中川晃教という人の圧倒的説得力

実はコンサートでは見たことがあったんだけど、ミュージカルとして舞台に立っているのは今回が初見。歌が凄いのは知ってるけど役が乗ったらどうなるのかな?と思ったら、想像以上に歌!!!歌唱力!!!で殴られてお芝居の比率が低いわけじゃないのに物凄い歌のパワーを感じた。いや、もう、圧倒的勝訴じゃん?負けないじゃん?とんでも説得力じゃん?捻じ伏せられるじゃん?Wキャストでこんなに真逆な解釈もってきます!?ってびっくりしたんだけど、見てる間中むしろなんで柿澤ビクターあぁなった!?とまで思えたから(柿澤ビクターの解釈が無茶苦茶好きなのにも関わらずだよ)大正解だったんだろうなぁ。凄かった。

中川ビクターを主軸にしたときのこの話は、ビクターが創造主になり得る物語なんだなぁと思って、見終わったときにビクターが神になるまでの話だなと思った。基本的にわりと孤独で大丈夫だし周りのこと気にしてないし、研究第一だからこそアンリ・デュプレ使えるんじゃね?って迎えに行ってるように見えた。話してみたら自分と同じレベルなのに違うベクトルから議論が出来るし、これは儲けた!みたいな。なんだろう、あまりにビクターの思考回路が常人とは違う回転してるもんだから物凄い翻弄される。これは天才だし特別な子だわ、と。アンリの首が欲しいと思っていることに何も違和感がなかった。そりゃ、冷静に生き返らせるわな。

怪物に俺と同じ苦しみを味わえと言われてもいまいちピンときてなさそうというか、たぶんそもそも他人の感情を察するとかがめちゃくちゃ苦手そう。ドイツ女性の体が云々の台詞に全く実感が伴わないんだよ。坊ちゃん、女遊びとかしたことないっしょ?あと運動神経悪いよね?としか思えないあのドタバタ走り。もともとの中川さんの癖か?と思ったんだけどジャックは普通に動いてたからあれはビクターのキャラクター付けだと思ったんだけど、この辺誰も気にしてないのか感想とかでも見かけたことなくてアレェ?と思っている。やたら気になったよ。

ラストの怪物とのアクションから、撃ち殺して抱き寄せに行くところ。どう見たって後悔の欠片もなくて、あまつさえ抱えながら空、うーん、天?見上げた表情があまりにも強くて、それは最期の「ビクター」で、怪物のなかにアンリがいることを確信=生き返らせることが出来た、に成功の満足感を得たからかな。あの表情があまりにも勝った!!!でしかなくて、そこで幕切れだけど、この人、この勝ちをここまでの充足感にするんじゃなくて、次の一歩にしたなって感じた。どう考えても生き残るし研究続けるでしょ。怪物の痛みとか何のそのですよ。

 

・で、そんな中川ビクターとの加藤アンリ

そりゃ、晴々しく死ぬわな!?

加藤アンリ、冒頭の殺されそうなシーンに躊躇がなさすぎて、え?さっき敵側の兵士さんすら助けようとしたのになんで自分の命そんな軽い?どうした?ってなる。なんとなくお医者さんっていうより兵士で、がっつり叩き上げなイメージ。軍という規律のなかで生きてきたからこそ、酒場でのハメの外し方が上手いし、いつそこらで野垂れ死ぬか分からない諦観もあるというか。これは軍という組織のなかでいつ理不尽な目に合わされるかも分からないってことも含めて。だから軍のなかとはいえ、ある意味切り離されたビクターの研究所は新鮮だったし、自分の思想を軽く飛び越えたところにいるビクターを物凄く眩しく見る。中川ビクターとだとここの相互理解が深い。ビクターは先に突っ走って振り向かないし、アンリはそれについて行きたいと思う。

民衆に人殺し!と小突き回されるところではまだ迷いがあるように見えたんだけど、なんだろう、そんな扱いをされることに驚くというか。でも刑務所に入る頃にはスッキリした顔をしていて、ビクターが自分の首を使ってくれることに思い至ってるし、そうして欲しいと思ってる。そういえば所詮自分の人生こんなもんだったなって思い出してるというか。加藤アンリは物心つくかつかないかくらいで両親が居なくなって、公的な孤児院で育って軍に入ったイメージなんだよね。特に劣悪な環境で育ったわけでもないけど、自分の主張が通るほどの場所ではなかったし、なんなら他から見たら結構な我慢のさせられかたしてるけど自覚はないというか。最期にアンリに首を使ってもらえるなら本望だなってそこに希望を見出しちゃってる感じ。だって普通そんなにハキハキ上らないでしょ、断頭台への階段。「13段じゃないのね?」とか一緒に観に行ったママンが言うから、そこは数えてなかった…と思った。

 

・ここからは柿澤ビクターの話

天才で特別な子ではあったけど、根底にあるのは"大切な人をなくしたくない"かな。あの年代の子供が母親を亡くしたら「生き返らせてよ!」と言うと思うし、「良い子にしてたら良くなる」と言い聞かせられていたなら反発もする。なんなら神は信じてる、けれどもそれは呪いという縛りとしてっていうのはここに繋がるのかな。良い子にしてたら、という呪い。良い子でいなくては、という縛り。寂しがり屋で誰かに認めてもらいたいのに自分は呪われてるって思ってるから人と深く関わることが出来なくて、刹那的な遊びで繋いで何とか生きてきた感じ。研究熱心ではあるし、そこに自信もあるから尊大な態度を取れるけど、中身が無垢な子どもだからこそという部分も大きくて、無意識な防衛と信じた人への甘えがアンバランス。そこを魅力とみせる柿澤勇人の芝居がめちゃくちゃ好き。

柿澤ビクターは純粋にアンリの論文を良いと思って、なんで研究を辞めてしまったんだ?ってことが知りたくて迎えに行ったような気がした。あそこで偽善者だ、って言い回しが出てくるのがすごくしっくりくる。話してみたら仲良く出来そう、したい、って思うからこそ逆の強い言葉が出てしまう感じ。両アンリともきっと柿澤ビクターより年上だよなぁと思うのは、ここで話を聞いてくれて、聞いたうえで一緒に行こう、ビクターの見る理想を一緒に見たいと決意しているように見えるから。中川ビクターだともうちょいここが強引な感じがする。アンリに甘える柿澤ビクターめちゃくちゃ可愛いんだけど、パーソナルスペースが近くなればなるほど依存度合いが高くなるように見えるから、刑務所のシーンが恐ろしくしんどくなるのよね。

 

・そうそう、酒場の話

唯一の明るく賑やかなシーン楽しかったー。柿澤ビクター、不貞腐れてどっちのアンリにもめっちゃ甘えるし許されると思ってるし本当子どもで可愛い。両アンリも肩に抱き寄せたりワシャワシャ頭撫でたり圧倒的出来る彼氏なのたまらなかった。それして欲しい。

 

・小西アンリの生への執着

中川ビクターとの組み合わせは見られてないから、柿澤ビクターとの印象が全てなんだけど。結構あっさり死にたがりかな?と思った初回と、諦めてるけど生きたいね?ビクターと"一緒に"生きたいんだね、って感じた東京楽への変移がレポを追っているとよく分かって。それがこの組み合わせを共依存の沼に沈めていたのかなと思う。

両親がいないんだ、というわりには育ちが良さそうで、裕福なお家に生まれて、不慮の事故とかで両親を亡くして、親戚筋とか跡取りの欲しい貴族とかいわゆる階級のあるお家の養子になったのかな、という印象。不自由なく育てられたし、望んで医者にもなれる頭脳があったけど、なんとなく両親から取り残されたという喪失感がずっとある。憂いとか陰りとか、そういうの見せるの上手だなぁと思った。なんとなくずっと生きるとは?みたいなこと考えてそうだし、だから医者になって死体利用の研究もしてみたけど、倫理観とか育ててくれたお家への義理立て(こんな研究外聞が悪いとか)で離れたところにビクターがやって来たのかな。小西アンリの言う「この研究が正しいかどうかは分かりません」がすごく印象的だったんだけど、本人もパンフで触れてて、やっぱりそこはキーにしてるのかなって思った。

 

・さて、では、組み合わせの妙義

最も地獄を感じたのが柿澤ビクター×加藤アンリ。

いや、だって、加藤アンリ、そんな甘えて甘やかして面倒見の良い感じから、罪を被るほうへの舵取りがあまりにも迷いなく鮮やかだから、実は全然柿澤ビクターのこと見てなかったんじゃ…!?とか思ってしまう。その子そんなに強くないよ!?もう柿澤ビクター、あまりにも負けっぱなし、泣きっぱなしでどんどん子どもにしか見えなくなってく。「笑ってよ」って台詞からの断絶感がすごいんだもん。加藤アンリはビクターが眩しいから、その闇を請け負うのに全く躊躇がないんだけど、柿澤ビクターはやっと出会えた同士にそんな風に思われてるとは露ほど思ってないからここで完全にすれ違うんだよね。自分の言葉が全く届かないと突き付けられる柿澤ビクター本当に可哀想。アンリの首を持ち帰るなんて発想、全然なかったんだろうに、あれは半ばヤケで取り戻して勢いのまま蘇生を試みたんだろうなぁ。動いたら嬉しかったんだもんね。でも、"アンリじゃないもの"だったのが悲しくて仕方ないんだ。

 

閑話休題

ここまでほぼ1幕の話しかしてないの我ながら凄い。そうなの、たぶん1幕のほうが好きなの。でも正直、1幕何とか解釈しようとしてたら2幕を咀嚼しきれてないまま終わっちゃったんだよな、と思う。情報量が多いというか、それぞれから受け取るうえに考えたくなる余白が多すぎるからパンクするんだよ。おたくワガママ。あー、楽しい。

 

・怪物の話

加藤怪物は身体機能、小西怪物は精神機能の発達が早かったのかなと思った。加藤怪物のほうが体動かすの上手で、小西怪物のほうが人の気持ちを察するとかが上手。…とか書いてるけど、そもそもアンリの脳を使って、他の体と繋ぎ合わせて誕生させた怪物、赤ちゃんから始まるわけじゃないし、起点どこよ?とか改めて思う。うん、思っちゃいけないやつ。

誕生の瞬間からの動き、歪に見えるけど全体的に普段人が動かさない方向に動いてるからそう見えるだけで、実はそんなに凄い技とかは使ってないよな、と思った。2人とも関節は柔らかいんだろうけどねぇ。だいたい同じ動きだったけど、微妙にそれぞれでアレンジしてるのかな。どうしてその動きになるんだろう?ってところが面白かった。これ、ナショナルシアターのフランケンシュタインだと這ってるとこから始まるから、こっちの怪物、いきなり座れるし、立とうとするし、動きのスペック高いな!と思った。

 

・小西怪物が切ない

カトリーヌとのやり取りで泣きそうになる。だってそこに淡い恋が覗いてるように見えるから。カトリーヌが喜んでくれるかな?って思ってるのを滲ませてくるあのお芝居本当になんなの?(好きです)2人の曲の最後が幸せを錯覚させて、抱き上げたり、抱き付いたり、めちゃくちゃ可愛いのにほんの一瞬で奪われてしまう。怪物が自分を恨み始めるのってあそこからなのかな。自分への痛め付けももちろん辛いけど、自分が原因でカトリーヌが傷つけられることが辛い。カトリーヌが何されてるか察してる感じがした。あのお水貰うとこも、笑うのしんどすぎてな。あそこのカトリーヌのソロ大好きなんだけど(低音のきたぁーーー!感やばい)あぁ、受け取らないで、嬉しそうにするのやめてってなった。

東京楽、がっつり双眼鏡覗いてたらカトリーヌに罵倒されたあともカトリーヌが倒れ込むとそっちに手を伸ばしたくて伸ばせなくてってやってる怪物にブチ当たってしまってもうぐちゃぐちゃ。カトリーヌに覗き込まれた瞬間笑うの。で、そのあと自嘲するの。あんた短期間でどんだけの情緒習得して組み込んでくるの?自分も、自分の相手をしてくれた人(カトリーヌ)も傷つけられて、捨てられて、"人間ではないもの"として生を持つことを段々理解していって、言葉の意味が分かるようになって、それでビクターの日誌を読んだら復讐をしに行こうと決めるよなぁ。読めてしまうのは、アンリの知能を持ってるからであって、ここらへんからアンリの記憶も蘇り始めるのかな。

 

・エレンの話

初演がめぐさんだったとかマジやばいっしょ。特別な姉と弟だったんだろうなと想像ですら分かる。見たい。でも、エレンが強くなると全体のバランスが難しそうだなとも思う。そういう意味では今回の演出はビクターが誰にも理解されない子ども時代を送って、孤独を深めていった先にアンリがいるっていう展開なのは分かりやすいよね。その後のストーリー展開を含めて大変地獄。エレンが亡くなって、抱きしめようとして空を掴むようにすれ違うあのシーン、柿澤ビクターがぐしゃって泣き崩れるの大好きだったな。

 

・忘れちゃいけないリトルたち

いや、全員上手いな?歌も、お芝居も。2階で見てるとまぁ低音がオケに消されるもんだからスコーンと高く抜けてきてオケの音もシンプルなリトルビクターたちの歌は本当によく響いてた。なんなら一番にぶわぁっと鳥肌立ったのそこだもん。なんかとんでもない子を見ている、と。ビクターに繋がっていくのがめちゃくちゃよく分かる。で、それに寄り添うちょっとお姉さんなジュリアが無茶苦茶良い。「どうして大人は分からないんだろうね」って分かり合えた2人が凄く良かった。だからこそ、ビクターがジュリアを遠ざけたのも分かるし。ジュリアが父親に促されてビクターの前から去るところ、振り向き方が絶妙で良い余韻が残ってたなぁ。

 

・ところでジュリア。

純粋なまま育ちすぎ、と思わないでもなかったけど。結婚式のところ、2人でおでこコツンてしてからキスするのめちゃくちゃ可愛かった。あそこから指輪してるのも好き。

 

・東京楽に観た圧倒的熱量

見比べて、レポ漁って、最終的にやっぱり一番刺さるのは柿澤ビクター×小西アンリだな、と初見コンビに戻って、千秋楽の手配をしたの本当に偉かった。あんなにふらっふらになったの久しぶり。あんまりにも柿澤ビクターの歌から発せられる熱が高すぎて、呼吸止まるわ、浅くしか出来なくなるわ、瀕死寸前、目も回る。柿澤くんはむしろ他の人を引き出すのが上手いんじゃないかと思ってたんだけど、冷静になってから思い出すのと人の感想読んで物凄く納得したのが、あの柿澤くんを引き出したのは小西アンリだということ。あのレベルで歌える人が芝居で殴ってくるの大っ好きなんだけど、完全に真っ向からそれだったんだよね。そりゃ死ぬ。小西くんマジで上手いな…柿澤くんも任せて全部乗せてしまえるその自由さが凄い。話はズブズブの共依存の沼なのに、2人は2人の世界で高く飛び立ってくれるもんだから気持ち良いんだろうな。

北極でのラストの「ビクター」は、やっぱりアンリな気がしてしまう。だって小西怪物、幸せそうな顔で死ぬの。ビクターに殺されたいのはアンリだよね。